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伝ウェリントン公爵家旧蔵 セヴィニエ ブローチ

制作年 18世紀
制作国 フランス
制作者 未詳
素材 エメラルド、ルビー、ダイヤモンド、ゴールド、シルバー
サイズ L130mm, W75mm, H10mm

作品説明

18世紀フランスのマルチ・ジェムがセットされたゴールドとシルバーのブローチ。貝をモチーフとしたデザインで、貝の中心部からエメラルドとダイヤモンドの列が交互に伸び、先端部に6個のカボションカットのエメラルドが配されている。エメラルドそれぞれの中心部にはルビーとダイヤモンドのスプレイが表現され、ダイヤモンドの三つ葉飾りが上部を飾る。この貝のモチーフ全体の下部には、コレットセットされたドロップシェイプのエメラルドがセンターに、さらにファセット加工したルビーが、エメラルドをセットした短いチェーンによって吊られている。また、もみ殻デザインのパーツが配された長いエメラルドセットのチェーン二本が、エメラルドとダイヤモンドで構成された上下逆の小さな貝のモチーフを通過するように下がり、それぞれがエメラルドの蓋部を持つグラデュエイトしたルビーとゴールドのタッセルに繋がっている。裏面はゴールド張り。

 

来歴

ウェリントン家先祖伝来と伝わる。初代ウェリントン公爵(1769-1852)の子孫である、シウダード・ロドリゴ女公爵アン・リース(1910-1998)から入手された。

解説

このセヴィニエ・ブローチは、フランスのルイ15世時代に好まれた貝殻、花などの自然主義のモチーフとタッセルを再び採用した18世紀のパリの宝飾店による熟達した作品の例証である。宝石自体の美しさや職人技術にも目を見張るものがある。エメラルドの明るいグリーンは、ダイヤモンドの白の輝きによって美しく引き立てられ、フローラル・スプレイから際立つ真紅のルビーとのコントラストで生き生きと輝いている。このデリケートな枝状装飾をドーム状のエメラルドに取り付けるのは非常に難易度の高い「離れ業」であり、当時のフランス宝飾業界の技術の高さが窺える。18世紀復古主義のブローチとして挙げられるもう一つの例がある。パリの宝石職人、ジャン=バティスト・フォサンがソロモン・ド・ロートシルト(ロスチャイルド)男爵夫人のために1842年に制作したセヴィニエ・ブローチであるが、これは「パールと宝石のブーケが貝のモチーフ上に表現されたもので、ルイ15世様式の縁飾りは見事に彫刻されたゴールドで、半透明の青、白、緑のエナメルが施され、小さなペンダントのドロップのフリンジがあしらわれたもの」とある。

これほど重要なジュエリーであれば「セヴィニエ風」に着用されていたはずである。つまり、薔薇色のヴェルヴェットかシルクのドレスを着用し、そのレース・トリミングのデコルテの中心に留めるというのがセヴィニエ風である。この「セヴィニエ」という呼び名は、有名な作家のセヴィニエ侯爵夫人(1626-96)に由来するが、彼女がボウノットのブローチをこのように付けていた姿が肖像画に描かれている。この作品のようなリボンやボウノットのブローチのデザインは、P.プージェにより『宝石論(Traité des Pierres Précieuses)』として出版され(1760、1762年)、その後も王室や貴族たちの間で18世紀の終わりまで流行する。エメラルドはスペインに豊富にあったから、エメラルドが多用されたデザインはスペイン王室メンバーか貴族により注文された可能性が高い。高品質で精巧な石のセッティングから見て、このブローチはその創造性と高い職人技が国際的に認められていたパリのジュエラーによって作られたものである。

また、初代ウェリントン公爵の子孫とスペインの親密な関係は、ウェリントン公爵がスペインのシウダード・ロドリゴ公爵の称号を授かったことに始まる。この時ウェリントン公爵は、半島戦争においてフランス軍に勝利した功績により、グラナダの広大な領地のほか、宝石、美術品や絵画などを授与された。初代公爵の妻はほとんど公式の場に現われず1831年に没しているので、彼女がこのセヴィニエ・ブローチを着用していたとは考えにくい。しかし、その義理の娘、エリザベート(1820-1904)は1839年に後の第2代公爵と結婚し、様々な重要な行事に正装で出席している。長身で美しかった彼女は、ヴィクトリア女王のお気に入りのコンパニオンでもあり、1843年から58年まで女王の「寝室付き女官」、また1861-68年と 1874-80年には服装担当のアドヴァイザーまでを務めている。国民的英雄でもあった義理の父親との関連性も深いこのブローチは、彼女の首とウェストの間に留められ、宮廷のいかなる公式行事でも、その高貴な特徴が大いに称えられ話題に上ったことであろう。

第6代ウェリントン公爵が1943年に没すると、姉であるアン・リース夫人がスペインの称号を継承するが、後に彼女はこれを放棄し叔父の第7代ウェリントン公爵に譲る。このセヴィニエ・ブローチは彼女が相続したジュエリーコレクションの一部であり、その中にはウェリントン公爵夫人のために19世紀にスペインで入手された他の多くの品物もあった。

このブローチを相続したアン夫人は、自分の先祖である初代ウェリントン公爵が購入したものであるから、コレクションの他の品々がそうであるようにこの作品もスペイン製であろうと思い込んでいた。しかしながら、ウェリントン公爵家コレクションの記録担当部署からはこれ以上の資料は出ておらず、『ブリリアント・ヨーロッパ』展カタログでは「スペイン?」と製作国の欄に疑問符が付けられた。また、さらなる研究によって、このジュエリーが優美なロココ・スタイルの特徴を示していることからフランスで制作されたことが指摘された。ロココ・スタイルとはルイ15世の愛妾でありフランス芸術界の女王でもあったポンパドール夫人が流行させたものである。