作品名 | カステラーニ トリプティック ペンダント |
制作年 | 1865年頃 |
制作国 | イタリア |
制作者 | アウグスト・カステラーニ |
素材 | ゴールド、ガラス(ローマンモザイク) |
ゴールドのトリプティック(三つ折り)ペンダント、円形のループ(ネックレスを通す部分)にモザイクを嵌め込んだ三枚のメダリオンが蝶番でつながれたものが下がり、下部には松かさの形をした装飾が施されている。中央のメダリオンには金色のギリシャクロスがモザイクで描かれている。青い背景に聖母のシンボルである百合が十字架の腕の間に描かれ、赤と白のギリシャのキーパターンで縁取られている。一つの面はキリストの胸像で、十字架を包みこんだ後光がさし、赤と緑の刺繍のついたドレーパリ(ゆったりとしたガウンのような服)を身にまとっている。キリストの背景は極めて細かい金色のモザイクになっている。別のメダリオンに描かれた聖母マリアもまた後光がさし、金色の背景である。ビザンチンの王女のようなローブと宝石を身に着け、王冠からは何連ものパールが肩先へと下がっている。
これらの胸像は1140年ローマの聖マリア教会の壁面に、コンスタンティノープルの職人によって描かれた同じ王座に座り、一つの足台を分かち合っているキリストと聖母から写したものである。それぞれのメダリオンの裏側には、カステラーニのシグネチャーである菱形の中に背中合わせに組み合わさった二つのCが二重の円の中に表されている。
アウグスト・カステラーニ(1829-1914)は宝飾品と装飾美術品で世界的な評価を得た。19世紀の旅行ガイドブックの全てがトレヴィの泉近くにある彼の店を訪れることを勧めていたほどである。ショールームは美術館のような宝の宝庫で、古代美術の愛好家たちは現物と同様に素晴らしい竜金細工のカステラーニ作のギリシャ、エトルリア、ローマなどの宝飾品を購入することが出来た。このトリプティックでカステラーニはローマの最も偉大な宗教的モニュメントをミニアチュールに写すことに成功している。宗教的なシンボルをモザイクの宝飾品にするというアイデアは詩人でありまた考古学者、愛国者であったプリンス・ミケランジェロ・カエタニのものであった。カステラーニはルイジ・ポディオ(1805-83)の指導のもとモザイク専門のスタジオを創った。この鮮やかな色彩と輝く金のトリプティックは、ポディオその人の監修によるものと思われる。その素晴らしいクオリティはカステラーニが教皇レオ8世に献上したミサ典書の上に飾ったメダルのモザイクと並ぶものである。チェーンに提げて首やウェストに提げて使うなど、眠りにつくときはベッドの脇に立て掛けるミニアチュールとしても使用できた。
このトリプティックはカステラーニの最高傑作のひとつであるといえる。ビザンチンの宗教精神を表す、聖母の神聖な美しさと、キリストの主としての荘厳さを再現し、極めてシンプルなセッティングで仕上げられている。