作品名 | カルティエ ダイヤモンド ティアラ |
制作年 | 1930年 |
制作国 | フランス |
制作者 | カルティエ |
素材 | プラチナ、ダイヤモンド |
カルティエが1930年頃に製作したダイヤモンドをセットしたアール・デコの重要なティアラは、グラデュエーションした五枚の幾何学的なシールドシェイプのパネルから成り、その各パネルは3列になったフレームから取り外すことが出来る。全面にブリリアントカットおよびバゲットカットダイヤモンドがセットされ、主要なクリップにはカルティエロンドンのサインと27712のナンバーが刻印され、2点の最も小さなクリップにはカルティエのサイン、その一方には9029のナンバーが打たれている。5点のクリップ用フィッティング(変換金具)と1点のブローチフィッティング、1点のカフバングルが付属になっている。
第一次世界大戦のあとに続く年代においては財政的な状況が良好ではなかったにも関わらず、イギリス社交界および宮廷では貴婦人たちは依然として、スマートな社交の機会、特に「ティアラ着用のこと」と招待状にある場合にはその要求に応えた。しかし最も裕福な女性だけが最新のファッションに通じていることを見せるために新しいティアラを購入することができたことから、この時代からのティアラはかなり稀少なものである。またもちろんのこと、それが可能な女性たちは最もお洒落で最上のものを望んだが、カルティエのジュエリーはまさにそれそのものであった。したがってこのティアラは、ごくわずかのティアラが製作されていた時代に、間違いなく最も重要なジュエリーメゾンによってデザインされた素晴らしいアール・デコの実例である。
先端に向かってテーパーされたその記念碑的なタワーすなわち「パイロン」(=エジプト寺院の塔門)が示すように、それは古代エジプトへの参照と組み合わせた戦後の時代の幾何学デザインを例証するものとなっている。バゲットとして知られるより新しいレクタンギュラーカットダイヤモンドのふんだんな使用は、幾何学的な感覚をいや増している。しかし最も富めるレディでさえ、自分の高価なジュエリーの中から出来る限り多くのパターンで着用できることを願ったものであり、いくつかのフィッティングを含むことによりこのティアラはネックラインや襟を飾る様々なクリップに、あるいはイヴニングガウンに留める1点のブローチに、さらにカフ(袖口)に着用してエレガントな手首と裸の腕の美しさを高めるバングルに変換することが出来る。これらのダイヤモンドの選択は、このジュエリーをより一層マルチウェアに映えるものとしている。というのは、これらの石の白さがドレスのいかなる色をも補うとともに、所有する女性がこの素晴らしいジュエリーのどのような着け方をしようとも、彼女の美しさを大いに増していたであろうからだ。