制作年 | 16世紀後期~17世紀初頭 |
制作国 | フランス |
素材 | ゴールド、ダイヤモンド、ルビー、エナメル |
サイズ | L13mm, W23mm, H27mm |
ゴールドのギメルリングは、様々な色にエナメルが施され、盛り上がった二重のボックス型のベゼルには、共にテーブルカットのダイヤモンドと赤いルビーがセットされている。
ベゼルを開けると下に2つの空洞があり、生まれたばかりの赤子と、骸骨がそれぞれ入れられている。噛み合って一体化している一対のフープは、内側にラテン語で「NON SEPARETHOMO/QUOD DEUS CONIUNXIT」と彫られており、赤いハートを掴んだ手の形が翼付のショルダーへと繋がっている。ベゼルの裏側は、円を中心に縦溝がつけられている。
この並外れたリングはギメル(gimmel)と呼ばれるが、ラテン語の双子を意味するゲメルス(gemellus)に由来するもので二重になったベゼルとフープを指し、それを開けると空洞と銘刻が見える。二つの石と二つのフープは、二人の恋人、男性と女性が、人生と幸福を共にすることと呼応し、またラテン語の銘文は「主が結び給いしものを、人をして離れ離れにさせるなかれ」という意味で、聖書からの引用(マタイ福音書19.6、マルコ福音書10.9)であり、結婚の誓約の不変性を言明するものである。
リングのショルダーにあるハートを捧げている手は、さらなる愛の象徴性を備えるようにと、熱情を伝える赤いエナメル、そして何ものにも破壊されない忠誠の象徴としてダイヤモンドが使用されている。
ルネサンスの婚礼の儀式においては、このようなリングは契約を表した。メメントモリと呼ばれる、赤子と骸骨の像は、人間は裸でこの世に生まれるのだから同じように何も持たずに死を迎えようという聖書の一節ヨブ福音書1.21)を想起させる。その教訓は、我々が如何に富んでいようとも自らの財産を墓まで持っていくことは出来ない、すなわち善良な人生こそ死への最善の準備であるということである。ダイヤモンドの稀少性が故に、またゴールドスミスの仕事の卓越さが故にこのリングは資産家のために作られたものだが、世俗的な財産の空しさを思い出させるものとして相応しかったに違いない。この離婚にあらがう強い申立ては、死の必然性の戒めを与えると同様に、フープとベゼルが一体化していることによってそれを身に着ける人しか知らない秘匿であった。
同様のデザインのリングはニューヨークのベンジャミンズッカーコレクションに2点、東京の橋本コレクションに1点、ヴィクトリア&アルバート博物館と大英博物館にそれぞれ2点があるが、メメントモリのシンボルを伴わない。
また、財政家のサー・トーマス・グレシャムの結婚指輪(D.スカルスブリック『テュダーとジャコビアン時代のジュエリー』1995年刊、33ページ参照)にある。