作品名 | シガレットケース |
制作年 | 1925年頃 |
制作国 | フランス |
制作者 | カルティエ |
素材 | ゴールド、コーラル、パール、鼈甲 |
ゴールドの四角い形のシガレットケースは、上のカバーと受け皿側の表面に螺鈿を施したプラークが象嵌されており、それぞれに極東の国の風景が描かれている。上のカバーには、一人の農夫が1本の木の下で突き棒を手に、草と花をつけた植物、樹の生えた地面で草を食べている四足の家畜の後を歩いており、また受け皿には、年老いた漁師が満開の花をつけた木の下で静かに小舟の中に座し、釣竿を差し出して当たりを待っている。これらの風景は細い刻み目をつけた縁飾りで囲まれており、四隅にコーラルの盛り上げ装飾がつき、バトン状のコーラルの指押しノブがついている。サイド部分にはドラゴンが彫り込まれ、端には東洋の雷紋で模様が施されており、内側は鼈甲の裏打ちが為されている。
喫煙は、第一次世界大戦後に実生活においてまた小説の中に登場したモダンな解放された女性のシンボルであった。このような女性の豪華なシガレットケースへの需要に応えて、カルティエは幾何学的な形でまた漆と螺鈿用の貝(漆を塗ったパープルとグリーンの色調のマザーオブパール)によるテクニックで仕上げたシノワズリのプラークでエキゾティックに装飾したボックスを創り上げた。軽量でフラットなこれらのエレガントなケースは、小さなハンドバッグまたはポケットに入れて容易に携帯することができた。
その他の作品例については、『カルティエ・コレクション:貴重なオブジェ』(パリ刊、2011年)のNo.264と265、268に掲載されている。このタイプのアクセサリーが稀少であるのは、手際よく蝶番で結合されたカバーの上のフレームのこれらのプラークをフィットさせるために要する技術が非常に高価であったことから、1929年の世界経済恐慌がこの洗練度の高い職人技につぃする市場を破壊した後に、製作されなくなったからである。