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テーブルカット ダイヤモンド クロス

作品名 テーブルカット ダイヤモンド クロス
制作年 1620年頃
制作国 スペインもしくはオーストリア
制作者 未詳
素材 ゴールド、パール、ダイヤモンド、エナメル
サイズ L80mm, W52mm

作品説明

クロスの前面はプレーンなゴールドにリムセッティングによりテーブルカットダイヤモンドがセットされている。両アームと縦軸が交差するセンターの位置にはエナメルによる百合の花が様式化されて描かれており、4つの先端に置かれたそれと呼応している。裏側にもエナメルが施され、ホワイトの地に花と葉のパターンが描かれている。

解説

このクロスはジュエリー史上のルネサンスとバロック時代の移行期に属している。ルネサンスジュエリーにおいては、ダイヤモンドや他のカラーストーンは彫りとエナメルを施したゴールドにマウントされ、ジュエリーの構成上の宝石の役割は押さえられていたが、1600年頃から宝石そのものにデザインの力点が置かれるようになった。要するに、セッティングはシンプル化され、出来る限り目立たないように宝石を固定するプレーンなゴールドの箱状のものになった。かくしてクロスのダイヤモンドの表面は、装飾的な彫りのないゴールド以外のいかなる色の干渉も受けないようになっている。
宝石が主要な役割を担っているモダンジュエリーの端緒となったのは、このタイプのジュエリーである。ここに見られるもう一つの革新は、ダイヤモンドのカットである。最も初期のジュエリーにおいては、正八面体のピラミッドのような天然の形状のままで用いられていたが、ここではテーブルカットになっている。すなわち先端の尖ったポイント部分が切り取られ、名前の由来となっているテーブルのような平板なダイヤモンドになっている。ポイントカットからテーブルカットへの移行は、ダイヤモンドジュエリーの発展における重要なステップである。一度テーブルカットの技術が習得されると、その他のカット、ローズカットやブリリアント・カットが17世紀を渡って登場してきて、最終的に現代のダイヤモンドカッティングの数学的な完璧さを導いたのである。クロスの前面のセッティングにはエナメルが施されておらず、したがってダイヤモンドの美しさを損なうことがないようになっているが、裏面にはエナメルが施されており、花と葉の美しいパターンが描かれている。こうしたものは、当時の芸術家的職人の仕事ぶりにおける完璧さへの強い情熱を物語るものであり、これほどのクオリティのジュエリーの裏面を、プレーンなゴールドのままにしておくに忍びず、装飾的な仕上げを施すことにしたのである。このことは、このクロスがどのように用いられたのかという疑問を生じさせる。まず、チェーンの先端に付けてから首から下げたか、あるいは左胸のリボン結びに吊ったかもしれず、あるいは、男女ともに腰に提げるロザリオ(数珠)に着けた可能性もある。こうした様々なクロスの着け方は肖像画に見て取れる。この壮麗なクロスが喚起する最後の疑問は、最初の持ち主にとってその重要性は何であったのかということである。ジュエリーが、特にダイヤモンドの場合、社会的な地位と富の顕示以上でない時代の今日とは違い、ルネサンスのジュエリーは着用するひとの信仰と忠誠、知的関心を示す文化的、精神的かつ政治的なテーマを表現するものであった。クロスは、キリスト教徒のもっとも強力なシンボルであり、当時において強い信仰心を表明するものであった。宗教は、男性も女性もそのために死する覚悟のある問題であった。プロテスタントもローマンカソリックの信者もともにクロスを身に着けたが、各先端とセンターに百合があしらわれているのは後者である。百合は、カソリック教とが神の母として崇める聖処女マリアのシンボルだからである。