制作年 | 1530年頃 |
制作国 | ドイツ |
素材 | ゴールド |
Size | L710mm,W28mm |
22金製と思しきこのゴールドチェーンは、無垢の「ウッドチップ(木くず)」型をした33個の環から成り、環の表面には両縁と中央にリブ状の金線装飾が施されている。全ての環は同じサイズで、クラスプは無い。このチェーンは襟元の首筋から離れた位置に、襟の外側にかけたり、少し背中側にずらすようにしたりして着用されていた。その様子は多くの絵画に描かれているが、特にクラーナハ(父子)の作品にはこのジュエリーが何度も登場している。
極めて希少かつ重要なこのゴールドチェーンは、宝石こそ使用していないものの、特筆に値するほど特別で貴重な作品である。このネックレスは、ドイツの王侯貴族や南ドイツの豊かな都市部の豪商ブルジョア階級がいかに繁栄していたかを物語る貴重な証拠といえる。勤勉な貴族やブルジョア階級たちは、自らの成功を誇りに思い、16世紀を通じてこのようなゴールドチェーンを富の象徴として身に着けていたのである。
ドイツのルネサンス期は、宝飾史の資料がほとんど残っていない時代である。ルネサンス期のドイツは、イタリアで花開いた芸術的繁栄の陰に隠れてはいたが、それとは異なる独自の方法でルネサンス芸術を開花させていた。少なくとも80を超えるドイツの領邦国家の特殊性、そして16世紀初頭にプロテスタントという宗派が発祥した背景があったためである。
ゴールドのリボンが巻き付いたように見えるこの種のチェーンは、「ホーベルシュパンケッテ」と呼ばれている(ホーベルはドイツ語で「チップ/木くず」を意味する)。これは家具職人の道具から生み出される木くずから直接着想を得たものである。忘れてならないのは、この一世紀後からフランス革命に至るまで、ドイツはフランスやヨーロッパに最も偉大で有名な家具職人たちを輩出していたことである。こうした偉大な伝統の後継者たちは金細工師と同等に重要視されており、移住した者の中には厳しいギルドの世界で受け入れられやすいように名前をフランス語化(カーリン、リーゼナー、オーベン、ワイスワイラーなど)した者もいたが、彼等こそ18世紀で最も美しい家具作品を創り出すことになったのである。