制作年 | 19世紀初期 |
制作国 | イギリス |
制作者 | ベネデット・ピストルッチ |
素材 | カルセドニー、ゴールド |
サイズ | L86mm W68mm |
カルセドニーによるバッカンテの頭像カメオ。長い巻き毛は肩下に垂れながら首の後ろで結ばれ、額の上部ではループを描いている。頭部はブドウの実や葉が冠され、背中には山羊の皮をまとう。右向きの横顔、その表情は夢心地である。
バッカンテという名前が示すように、ワインと幸福の神バッカスに巫女として仕えるこの女性は、ここではピストルッチにより恍惚とした表情で描かれている。酒やその他の秘薬を摂取したような様子で、おそらくはひなびた丘の上の饗宴に参加しているのであろう。こうしたバッカスの主題は18世紀後半から19世紀の趣味であり、古典芸術を厳格なものとしてではなく、甘くセンチメンタルな解釈で取り込もうとするものであった。ピストルッチは1815年にロンドンに渡るまでローマでも優秀な宝石彫刻師のグループの一員であったが、この作品では素材に対する高度な熟練を示している。与えられたカルセドニーという素材の色のニュアンスを巧みに利用して、色白な顔と肩、やや色づいたブドウの葉や様々な髪の色、また、美しく掘り出された耳や身体の上部にかかる山羊の皮の風合いなどは、バッカスを崇拝する若い女性に生き生きとした表現を与えている。ローマ博物館にはこのカメオの蝋型がある。これについてはL・ピルツィオ・ビロリ・ステファネッリによる論文「ベネデット・ピストルッチ」が『貨幣情報学』No.22、1巻、No.22、2巻に収められている。また、これと比較できる作品としてバチカン図書館所蔵のジュゼッペ・ジロメッティによる例がある(リゲッティ、図版18の1)。宝石彫刻におけるバッカンテという主題は「シンプルで愛らしい」という当時の流行を反映したもので、気の利いた女性達はこの作品のように、流れる髪にブドウの蔓を巻き付けて着飾ることを好んで古代芸術への関心を示し、そのような姿で肖像画に描かれていた。その典型がレディー・ハミルトン(1765-1815)であった。