制作年 | エメラルド: 18世紀中期
ネックレス: 1830年頃 |
制作国 | イギリス |
制作者 | 未詳 |
素材 | エメラルド、ダイヤモンド、ゴールド、シルバー |
サイズ | L370mm, H50mm |
ダイヤモンドとエメラルドのネックレスとマッチしたイヤリングから成るセット。ネックレスは、グラデュエーションした12個のステップ・カット・エメラルドそれぞれが盛り上がったゴールドのコレットに収められ、シルバーのコレットにセットされた14個のクッション・シェイプのダイヤモンドと交互に配されている。それぞれのダイヤモンドにはペア・シェイプのエメラルドが吊り下げられ、センターの、エメラルドのドロップを提げた12個のクッション・シェイプのダイヤモンドで取り巻いたドーム状の八角形のエメラルドとつながっている。一粒のエメラルドを施したクラスプで留めるようになっている。イヤリングはオープンワークのダイヤモンドの縁飾りに囲まれたエメラルドのブリオレットで構成されている。1762年から1765年の間に駐サンクト・ペテルブルグイギリス大使であった第2代バッキンガムシャー伯爵にエカテリーナ大帝より贈られたエメラルド。ネックレスとイヤリングはランデル、ブリッジ・アンド・ランデルによって1830年頃にマウントされたもの。
第2代バッキンガムシャー伯爵(1723-1793)とその未亡人キャロライン(1817年没)から二人の娘アメリア、キャッスルレイ子爵夫人、後のロンドンデリー侯爵夫人(1762-1829)へ、次いで彼女の甥の第7代ロティアン侯爵(1794-1844)へ、さらに次いで現在の一族へと世襲されたもの。
ロティアン侯爵の一族の各世代は、これらのエメラルドの大半は彼らの祖先であるバッキンガムシャー伯爵が1762-1765年にサンクト・ペテルブルクで大使職の任にあった間に、エカテリーナ2世女帝から賜ったものであると信じてきた。彼はハンサムであり、女帝はそうした美形の男性たちに対して特別情に脆かった。意のままにできるロシア帝国の巨万の富を用いて、彼女は個人としても女帝としても身近におきたいと望む人々に対して高価なギフトを与える立場にあった。ゴールドの小箱とジュエリーが彼女の通例の報償であったが、バッキンガムシャー伯爵だけがそのように贔屓されたイギリス外交官というわけではなかった。たとえば1770年、女帝はロード・キャスカート夫妻に壮麗なダイヤモンドのエイグレットを贈ったが、それは彼らがフランスのルイ15世から贈られた同じようなオーナメントの2倍の価値があると見積もられたものである。ロード・キャスカートはロンドンへ戻るやいなや、その女帝から贈られたエイグレットを売却してしまったのに対して、バッキンガムシャー伯爵は女帝から贈られたエメラルドを自分の相続人たちのために維持した。かくして、本稿のネックレスは、彼の未亡人の死後と彼らの娘のアメリアの死後に起草された双方の財産目録に記載されている。
アメリアの夫、キャッスルレイ子爵(後のロンドンデリー侯爵)は外務大臣であったことから、彼女は頻繁に公の目にさらされる生活を送り、またそれゆえにこれらのエメラルドのネックレスをイギリスやヨーロッパの宮廷のあらゆる社交の席で着用したに違いない。キャッスルレイ子爵はウェリントン公爵を昇進させることによって、ナポレオンの失墜に大いに貢献した人物としてヨーロッパの君主たちからも感謝の印としてダイヤモンドの高価なギフトを受け取り、それらを妻のコレクションに追加した。彼はまた彼女のためのジュエリーに自らも金を費やしたが、その中にはウィーン会議開催中に購入したエメラルドとダイヤモンドのオーナメント1点も含まれていた。
子供に恵まれなかったために、アメリアのエメラルドとダイヤモンドはやがてすべてが彼女の妹の息子、ロティアン侯爵へと引継がれた。彼がそれらをこの見事なスイートにセットし直させたのだが、おそらく1831年のウィリアム4世の戴冠式に合わせたものであった。宮廷ジュエラーのランデル、ブリッジ・アンド・ランデルの手に成ると思われるこのスイートは、第一帝政期にボナパルト一族の女性たちのために創造されたグランド・コート・スタイルであり、深いヴェルヴェットのようなグリーンのエメラルドと様々なシェイプとサイズの煌くホワイト・ダイヤモンドをコントラストさせた調和のとれたアレンジにデザインされている。その荘厳さと美しさは、ナポレオン敗北後に続いたイギリス史の中で最も輝かしい時代のイギリス貴族階級の富と権勢を反映している。このようなネックレスは、ナポレオン時代およびその後の200年間を通じて、重要な公式行事の席において装われたロー・カットのドレス用にデザインされたものである。戴冠式や公式訪問、宮廷舞踏会、国会の開会式において、これらのロティアン家のエメラルドはそのきらめくカラーと華々しいプロヴナンスのゆえに常に関心と称賛を集めてきた。このプロヴナンスに関する限り、一族は常にそれについて話してきただけでなく、文書でそれを確定してきた。この資料に添付されている1通のレターは現ロティアン侯爵からのもので、彼および彼の両親、その先祖たちは常に今やネックレスとなり過去200年余にわたって歴代侯爵夫人によって着用されてきたこれらのエメラルドは、彼らの先祖へのエカテリーナ女帝からのギフトであったとはっきりと明言している。一族は常にこの伝承を誇ってきたのである。
ほとんどすべての古来のジュエリーがモダンなスタイルのものにリセットされるか盗難に会うかしているために、このロティアン家のネックレスとイヤリングはイギリスの歴史や王室の人物にまつわる出自を持ちながら、現代まで無傷で残っているアンセストラル・ジュエリーと呼ばれる非常に希少なジュエリーの中のひとつである。したがって、この作品はバックルーチ公爵のコレクションにある女帝マリア・テレジアのブレスレットに、またロシアのアレクサンドル皇帝から贈られたロンドンデリー侯爵夫人のアメシストのネックレスに比肩するものである。