制作年 | 1680年頃 |
制作国 | ドイツ |
制作者 | 未詳 |
素材 | ダイヤモンド、エナメル、シルバー |
サイズ | L98mm, W71mm H12.7mm |
17世紀後期のダイヤモンドとエナメル、シルバーのクロスは、正面に縁を鋸刃状にしたスクエア・コレットに収められた6個のローズ・カット・ダイヤモンンドがセットされており、先端は小さめのローズ・カット・ダイヤモンドの間にテーブル・カット・ダイヤモンドをセットした葉のトレフォイルがあしらわれ、両アームと縦柱の交差部分にはアカンサスの葉のコレットに収めた4個のローズ・カット・ダイヤモンドが配されている。裏側は精緻にエナメルが施されており、センターに不透明なホワイトの地に際立つ蝶番で取り付けた聖遺物を収容する空洞が配され、スクロールするアカンサスおよび葉飾りを伴うイエローとグリーンの蕾の真ん中に6輪の満開のシャクヤクが描かれている。欠くことのできない提げ環は、ローズ・ダイヤモンドがセットされている。
この目覚ましいばかりに精緻なクロスは、17世紀の文化的かつ精神的歴史の2つを象徴している。空洞は聖十字架、すなわちキリストがその上で処刑されたクロスから取られたと信じられていた木材を削り取った物もしくはその破片である聖遺物を収納するようにデザインされており、このクロスの所有者はローマ・カトリック信者であったに違いない。宗教改革以降、ローマ・カトリックの信仰は復活し、ヨーロッパ各地にバロック様式の教会や修道院が建てられ、ローマ・カトリックの教義を示す美術品で埋め尽くされるようになった。同じく当時の精神の表現に富んでいるのは、背景の花々の自然主義的なスタイルであり、自然科学と庭園創造への大いなる関心だが、それは17世紀を通じて発展したものである。このフローラル・パターンはアウグスブルクのゴールドスミス、ヨハネス・テュンケル(1642-1683)によって刊行されたものに近いものである。R. バーリナー著『装飾パターン集』(1981年、ミュンヘン刊)、1032-34ページ参照。1660年代までにここにあるようにシルバーは、従来ダイヤモンド・ジュエリーに使用されていたゴールド・セッティングに置き換わるものなるが、こうしてイエローの映りこみが避けられた。裏側には、ゴールドの地に不透明なホワイト・エナメルが彩色された花をレリーフ状に彩り、自然主義の効果を増している。