16世紀末イタリアに発するバロック・スタイルは、17世紀後半からのフランスのルイ14世の治世下、全ヨーロッパへと波及した。建築家ベルニーニによる動的な造形の彫像を随所に配した、巨大で装飾的な建築群が象徴的な例である。ジュエリーでは宝石、特にダイヤモンドに焦点が当てられ、カット技術の進歩から多面ファセットを施したダッチ・ローズが生まれた。シルバーとゴールドのセッティングによるフローラル・デザインの隆盛により、造形性を重んじるゴールドスミス(金細工師)の役割は富の顕示に重点を置くジェム・セッター(石留職人)によって影を薄くされてしまう。フランスのエナメル師ジャン・トゥータンは、エナメル・ミニアチュールの発展に大きく寄与し、“コス・ド・ポワ”に代表される植物モティーフの装飾がフランスのジル・レガレなどのパターン・ブックを通して広まった。ドイツではドレスデンのグリーン・ヴォールト御用達ジュエラー、ディングリンガーの作品が知られる。