ビザンチンとは、395年のローマ帝国の東西分裂から1453年の首都コンスタンチノープル陥落まで存続した東ローマ帝国を指す。ローマの正統として古典芸術を継承したが、始祖コンスタンティヌス大帝の入信以降、キリスト教的なテーマが優勢となった。さらに8世紀の偶像破壊令により立体表現は衰微し、カラフルなモザイクに象徴される平面的表現が趨勢となった。先進技術であるクロワゾネ・エナメルや豊富なカラード・ストーンの使用は、西欧のオリエントとの交易がこの地を通して行われたことを反映したものである。
476年に西ローマが滅亡した後、その再発見と再評価は、5世紀末のフランク族メロヴィング、8世紀中葉のカロリング朝とシャルルマーニュ戴冠の西ローマ帝国再建、10世紀後半の東フランクのオットー戴冠と神聖ローマ帝国創建と続き、10世紀末から12世紀のロマネスクに結実する。未開な北方的要素が強い実用重視のジュエリーは、先進的な地中海的要素を吸収しつつ宗教性を深め、修道院内での荘厳具の製作が行われた。清貧を尊ぶ宗教観から装身具は慎まれたが、巡礼の記念バッヂ、インシニアは競って求められた。
12世紀に北フランスで興り、13世紀に入ってヨーロッパ各国に広まったゴシック・スタイルは、尖塔アーチや飛梁、ステンド・グラスのバラ窓、円柱人像、ガーゴイル(樋嘴)などを特徴とする大聖堂の教会建築に代表される装飾様式である。アーモンド型の目と抽象化された身体の人物像といった素朴な表現は、ジュエリーにも共通する。キリスト教徒にとって装身具はどちらかと言えば慎むべきものであったが、控えめなデザインに徹したスターラップ・シェイプのリングは例外であった。それらにセットされた小さな色石はカボション・カットであったが、ダイヤモンドはテーブル・カットが試みられた。